もうがんばらなくていい

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台風前の夕空

不思議と強いかなしさは来ない。おだやかななつかしさも来ない。そして緊張感は残っている。行けばまだ病室のベッドの上にいるような気がする。ときどき「この暑い夏を、父親は無事今年も過ごして行けるだろうか」と考えていたりする。次の瞬間に、「ああ、もうそれを考えることはなくなったんだ」と思い出す。

何も変わらない気がする。その瞬間から世界の見え方までもが変わるような予想をしていたけれど、何も変わらない。

もう何も食べれなくなり、楽しみも少なくなり、せん妄が少しでもやわらぐように現実感をもってもらいたいと思って畑の様子や犬の姿をスマホで撮っては見せたりしていた。わかる時には「ほぉー」とよくできた野菜の様子に感心をしていた。「お、かわいいな」と犬のことを話していた。

何を思ったのか、病床の父の様子を撮ったりしていた。けれど今日、改めてそれを見ていたら、もうそこから解放された父を、写真でそこにとどめておくことはないと思ってサーバーから消すことにした。自分にとって救いだったのは、父がしんどいしんどいと言ってはいなかったことで、確かにしんどい時はあったに違いないし、自分もそんな時の父の様子を見てもいたのに、「しんどいか?」と尋ねても一度もそうは答えなかった。いつも、「いや、しんどない」と話していた。

最後まで自分が大切に育てていた花のことを人に伝えたがった。写真を小さなフレームに入れて持っていたものを見てもらおうとしていた。言葉が通じなくなっても一生懸命ジェスチャーで伝えていたが、それはとても父親らしい力強さにあふれていた。あの状態であれだけの意志と力を出せていたのは、強いあの人らしかった。

父が病床にあったときの犬

一日前だったか、「おやじ」と大きめの声で呼びかけたらこちらを見たので、「これまで親不孝でごめんな」と話したのだけれど、それにその頃の父親は答えようがなかったとは思う。まあ、「これからも」親不孝なんだけれど。

夜中に呼び出しがかかり、かけつけた時にはモニターの反応がなかったけれど、あたまを覆うようにして「おやじ、がんばれ!」と声をかけた。いや、もうがんばる必要はなかった。それまで十分にがんばったのだから。

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